月の記録 第43話


各エリアが占拠されて12時間後、謁見の間の玉座の前には皇子シュナイゼルと皇女コーネリア、その後ろにラウンズが整列していた。
玉座には皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。
その横に皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
彼らは一様に険しい表情をしていた。

「エリア5のドロテア、エリア2のルキアーノだけではなく、エリア1にいたアーニャも捕えられたようね」

混乱していた情報は、すぐさまシュナイゼルによってまとめられ、今はマリアンヌの手の中に収められていた。あれだけ混乱していた通信記録もまとめられ、活字となって提出されるのだから、シュナイゼルとその部下の情報処理能力は流石と言える。

「彼らの持っていた携帯電話の記録から、テロが起こる1時間ほど前には捕えられていたとみられます」

ラウンズが所持している携帯電話は軍から支給されている物で、通話記録も全て確認する事が出来る。当然GPS機能もついている。彼らがどこにいるのか調べようとアクセスしたところ、テロが起きる前に彼らの携帯が破壊されていた事が解った。本来であればその時点で信号が入るはずなのだが、彼らを捕縛した者はその信号を受信できないよう、本国のシステムにハッキングしプログラムを書き換えていた。シュナイゼルさえ舌を巻くほど鮮やかな手口で、いつシステムをいじられたのかいくら調べてもわからないという。システムの復元を行い、彼らの携帯が破壊された時間がテロの約1時間前だと解った。つまりその時点ですでに彼らは敵の手に落ちていたという事だ。

「騎士章の反応は未だ政庁内にありますが、これだけのことができる相手が騎士章の機能に気づいていないとは思えません。本人が所持していないと考えていいでしょう」

ラウンズの騎士章にも機械が仕込まれており、GPS機能や緊急時にはモールス信号を送ったり、発信器として使用することもできるのだが、3人共捕縛された頃から騎士章の位置は動いていなかった。
11人の皇族と3人のラウンズを手にしたテロリストは、未だ何も声明を発表していない。各エリアの軍は下手な手出しは出来ないと、政庁を取り囲む形で待機しているため、敵はすでに袋のねずみ。脱出経路も押え、敵は籠城以外の選択肢はないはずだが、ブリタニアが優位に立ったとは誰ひとり考えていなかった。
沈黙を守る敵の姿は、それほどまでに不気味だった。

「陛下、このまま手をこまねいていれば、相手に準備をするだけの時間を与えることになります。エリア1から順に、片付けましょう」
「まだ、何か仕掛けてくると思うか、マリアンヌよ」
「まだ始まったばかりと考えるべきでしょう」
「だが、すでに逃げ道はない」
「これだけの事を行った相手が、逃げずに政庁に残った。つまり、この状況になる事が、相手の目的だと考えれば、時間と共に不利になるのはこちらよ」

囲まれても、退路を断たれても、テロリストは気にもしなかった。
皇族を盾に取り、ブリタニア軍が攻め込まないように牽制するだけ。
人質となった時点で、皇族であれラウンズであれ弱者となる。だから、彼らの生死など無視し、「人質を取られたからと言って、我がブリタニアがひるむと思ったか!」と、総力を持ってテロリストをせん滅するのが本来のブリタニアのやり方だが、皇族10名と騎士3名を見捨てなければ勝てないのだと、世界に示すようなものだ。・・・一人二人なら見捨てていた可能性は否定しないが、人数が多すぎる。

「政庁に立てこもり、皇族を人質にする事が目的で、今は時を待っている・・・と?」

シュナイゼルの問いに、マリアンヌは頷いた。

「自爆テロならとっくに政庁ごと吹き飛んでいるわ。皇族を手にする事だけが目的なら、逃走ルートも確保するのが普通でしょう?なにより、これだけの数のKMFを手に入れ、誰にも気付かれることなく政庁を取り囲むほどの相手だもの、もっと警備が手薄な時・・・標的が政庁を離れ、僅かな警備となった時を狙い、人知れず誘拐することも可能だったはずよ」
「だが、それをしなかったという事は、今この状況が彼らの望む形だから。だからこそ、11のエリア全てで同じように立てこもっていると?」
「全て同じ・・・そうね。まるで今日それぞれのエリアの総督が、政庁に必ずいると解ってたかのような行動ね」

皇族の予定全てを手に入れ、その日を狙ったのか、あるいはこの日全員が政庁に残るよう仕組まれていたのか。後者だった場合は、恐ろしいなんて言葉では済まない。

「相手が次の行動に移る前に、切り崩しましょう」

息を殺し、指示を待つテロリストたち。
次の行動が行われる前に、こちらが動かなければとマリアンヌはシャルルに言うのだが、シャルルは眉間にしわを寄せ、何やら考え込んでいるようだった。

「だがマリアンヌよ・・・いや、何でもない。シュナイゼル、コーネリア。ブリタニア軍及び我が騎士ラウンズの指揮権をお前たちに与える。ブリタニアに弓引く愚か者たちを根絶やしにしてくるのだ」
「「イエス・ユアマジェスティ」」
「マリアンヌ。二人の補佐として共に行け」
「ええ、解っているわ」
「ビスマルクよ、会議の手配はどうなっておる」
「非常事態ゆえ、今回は見合わせるよう手配をしております」

この騒ぎで忘れていたが、現在各国の首脳が日本に集まり、腹の探り合いを行う事になっていた。日本が選ばれた理由は、ブリタニアと比較的友好国とされているが、中華連邦やEUと敵対国でもない、ある種中立の立場にある国だからだった。
今回はその会議に、次期皇帝ではと囁かれているオデュッセウスと、 ナナリーが参加していた。二人はブリタニア皇族では珍しい穏健派で、今回のような会議でシュナイゼルが参加できない時は、二人がそろって参加する事が多い。
会議は明日。

「テロリストの次の目的が、その会議の可能性もあるわね」

各エリアの頭は押さえた。だから次は・・・

その予想は的中し、会議に出席予定だった各国代表とブリタニアの皇族は、テロリストの手に落ちた。

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